領民のブログ

領民とかいう人のブログです。あんまり頻繁に更新するつもりはありません。

解析力学、量子力学と群論、そして「小説家になろう」

正直何を書いたらいいのかわからなくなってきているので暫定的に完成版としておきます(20181202)
ーーーーここから本編ですーーーー
目次

0 この記事について

 この文章は、U-TOKYO AP Advent Calendar 2017の14日目の記事です。「解析力学量子力学群論、そして『小説家になろう』」という題名の通りほぼ全く関係ない3つの内容を書き連ねた記事です。各トピックに全く関連性はないので好きな順番で好きなトピックだけ読むことが可能です。Advent Calendarのメインサイトには「自分が日々学んでること、何かを作ったこと、を社会に発信する良い機会になれば」とか意識の高そうなことが書いてありますが、この記事に関しては物理工学科の内部生とネット上のクソ小説に興味がある人のみを対象にして書いたクソ記事だということを最初に謝っておきます。ごめん。
 「解析力学」と「群論」に関しては、物理工学科のカリキュラムには(事実上)入っていない*1にいつの間にか常識扱いになっていることを簡単に説明しておこうというものです。どちらも概要・要約や具体例をメインとした非常に入門的な内容なので、本格的に勉強したい方は記事の末尾に列挙してある参考文献を自分で読むことをお勧めします。あくまでこの記事は最初のハードル(活性化エネルギー)を下げるためのものです。
 「小説家になろう」に関しては完全な趣味です。適当にサイトの紹介をしつつ私の好きな小説をいくつか紹介します。

1 解析力学入門

1.1 解析力学とは

 具体的な内容に入る前に、「解析力学とは何か」という質問に筆者なりの回答を与えておきます。解析力学とは「Newtonの運動方程式に基づく力学の体系を、座標系によらないスマートな形式に書き換えて扱いやすくしたもの」です。この回答は、解析力学を「使う」ことしかしない人間の視点を大きく反映したものですし、そもそも筆者はまともに物理の勉強をしたことがないので多分間違っています。まあとりあえずそういうテンションで書かれた記事だということを念頭に置いた状態で読んでください。というか読まないでください。
 この章では、まず変分法について軽く復習したあと、Lagrange(ラグランジュ)形式とHamilton(ハミルトン)形式の解析力学について簡単に説明します。余裕があれば、Poisson括弧と保存量とか正準変換の理論とかNoetherの定理とか進んだ話をしたかったのですが、時間がなかったのでパスします([久保][十河][山本]などを読むとよいです)。

1.2 変分法の復習

 変分法については2Aタームの「数学1D」や「数学及力学演習」*2などで勉強していると思われるので、簡単に復習するのみにします。
 変分法(あるいは変分問題)とは、「汎関数」と呼ばれるものの停留条件を満たすような関数を見つける問題のことです。「汎関数」とは関数\(f(x)\)に対して値が一つ決まるような写像のことですが、変分問題では\(f(x)\)を含むような関数をある区間積分したものを考えます。具体的な記号も交える形で変分問題を定式化すると、関数\(f(x)\)に対して
\[
L\left(x,f(x),f'(x),f''(x),\dots\right)
\]
のような関数をさらに考えて、
\[
I[f]=\int_{x_1}^{x_2}L\left(x,f(x),f'(x),f''(x),\dots\right)\mathrm{d}x
\]
が停留条件を満たすような関数\(f(x)\)を見つけるのが変分問題です。
 停留条件を満たすような関数では汎関数の変分\(\delta I\)が0になっているという条件から、\(L\)を\(x,f,f'\dots\)などの関数として1次までTaylor展開して部分積分したり境界条件をつけたりなんだか色々計算すると[初]、\(f\)が満たすべき微分方程式を導くことができます。この方程式のことをEuler-Lagrange方程式と呼び、Lagrange形式の解析力学ではNewtonの運動方程式に対応する基礎方程式となります。
 簡単な場合として\(L\)が\(L(x,f,f')\)のように書ける場合のことを考えると、Euler-Lagrange方程式は
\[
\frac{\partial L}{\partial f}-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x}\frac{\partial L}{\partial f'}=0
\]
のようになります。この記事ではこれしか出てきません。

1.3 Lagrange形式の力学

 詳しい話は筆者も理解していないし、ブログの記事に書くようなことでもないので天下り式に紹介していきます。まともに勉強したい人や詳細が気になる人は参考文献[久保、ランダウなど]を読んでください。

1.3.1 一般化座標

 Newton力学でも運動方程式極座標に書き換える苦行計算をして円運動などを見通しよく解くことがありましたが、一般に、考えている系の位置の情報を完全に記述できるような変数(のセット)のことを一般化座標といいます。ふつうのデカルト座標のほかに、極座標や円筒座標など*3が一般化座標です。解析力学のご利益(特徴)は、どのような一般化座標を用いても同じ形に方程式を書くことができる点にあります。

1.3.2 ラグランジアン最小作用の原理

 Lagrange形式の力学では、ラグランジアン(Lagrangian)という関数の時間積分が最小値をとる運動しか起こらないという原理(最小作用の原理)から系の満たすべき方程式(Euler-Lagrange方程式)を得ます。本当は、Newtonの運動方程式を一般座標に変換しようと色々と計算をこねくり回してラグランジアンにたどり着くのですが、そんな面倒なことは書きたくないのでいきなり結果を提示してしまいました。ここら辺の詳しい話が気になるのであれば[久保、山本]などをどうぞ。
 まずラグランジアン天下り的に定義することにしましょう。系の運動エネルギーを\(T\)、ポテンシャルエネルギーを\(V\)、一般化座標を\(x_1,x_2,\dots,x_n\)(これらをまとめて\(\{x_i\}\)と書くことにする)とすると、系のラグランジアン\(L\)は、
\[
L(\{x_i\},\{\dot{x}_i\},t)=T-V
\]
となります。細かい表式はともかく、これは座標の選び方によらない量です。
 ラグランジアンの時間積分\(I\)は次のようになります。
\[
I[L]=\int_{t_1}^{t_2}L(\{x_i\},\{\dot{x}_i\},t)\mathrm{d}t
\]
この積分のことを「作用」もしくは「作用積分」などと言います。Lagrange形式の力学における基本原理は作用が最小になるように\(\{x_i\},\{\dot{x}_i\}\)の時間発展が決まる(最小作用の原理)ということなので、Euler-Lagrangeの方程式より、\(\{x_i\}\)の満たすべき方程式は
\[
\frac{\partial L}{\partial x_i}-\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\frac{\partial L}{\partial\dot{x}_i}=0~~(\mathrm{for}~i=1,2,\dots,n)
\]
となります。

1.3.3 例(万有引力

 例として、質量\(m\)と\(M\)の質点どうしに万有引力が働く状況を考えます。\(M\)の方がはるかに大きいとして、\(M\)が固定された座標で考えましょう。3次元のことなんて考えたくもないので、運動は平面上に限られるものとすると、この系を記述するのにちょうどよい一般化座標は極座標\(r,\theta\)な気がします。
 ラグランジアンを書いてみましょう。測度ベクトルの大きさ\(\dot{x}^2+\dot{y}^2\)に極座標の定義\(x=r\cos{\theta},~y=r\sin{\theta}\)を時間微分した式を代入して計算すると\(\dot{v}^2=\dot{r}^2+r^2\dot{\theta}^2\)となるから、ラグランジアン
\begin{align}
L=&\frac{m}{2}\dot{v}^2-\left(-G\frac{Mm}{r}\right) \\
=&\frac{m}{2}\left(\dot{r}^2+r^2\dot{\theta}^2\right)+\left(G\frac{Mm}{r}\right)
\end{align}
となります。
 面倒なので途中計算を一気にすっ飛ばしますが、このラグランジアンをEuler-Lagrange方程式に突うずるっ込んでやると、系が満たす微分方程式
\begin{align}
\ddot{r}+r\dot{\theta}^2=-G\frac{M}{r^2}=&0 \\
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\left(r^2\dot{\theta}\right) =&0
\end{align}
が得られます。ここから先は適当に古典力学に詳しそうな本を何か読んでください(投げっぱなしで本当に申し訳ないが、この部分は何も見ずにアドリブで書いてしまったので参考文献を紹介できない)。
 全然楽になった気がしないと思いますが、これでも極座標での加速度の表式を導出するよりは楽になっているはずです。たぶん。

1.3.4 まとめ

 要するに、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーを好きな座標で書いて\(L(=T-V)\)をEuler-Lagrange方程式に突っ込んだら運動方程式と等価な方程式が自動的に出てくるというのがLagrange形式の解析力学です。エネルギーを極座標などで書くのもそれはそれで面倒なのですが、加速度を極座標に変換するのに比べるとずいぶん楽です。楽なはずなんです。

1.4 Hamilton形式の解析力学

1.4.1一般化運動量

 Lagrange形式の解析力学では系を記述する変数として一般化座標とその時間微分を用いましたが、座標の微分をそのまま使うより運動量に相当する量を使って記述した方がなんだか気分がよい気がします。デカルト座標ラグランジアンを書くと、
\[
L=\sum_i\frac{m\dot{x}_i^2}{2}-V(x_1, \dots, x_n, t)
\]
となります。この式を眺めると、ラグランジアンを使うと運動量\(p_i\)を
\[
p_i=m\dot{x_i}=\frac{\partial L}{\partial \dot{x}_i}
\]
と書けることがわかります
 デカルト座標のアナロジーから、任意の一般化座標\(\{x_i\}\)に対応する一般化運動量を、
\[
p_i=\frac{\partial L}{\partial \dot{x}_i}~~(\mathrm{for}~i=1,2,\dots,n)
\]
と定義することにします。

1.4.2 ハミルトニアン

 ラグランジアンは一般に\(\{x_i\},\{\dot{x}_i\},t\)の関数でした。今筆者と読者に天啓が下ったとして、唐突にラグランジアンの全微分を計算してみると、
\begin{align}
\mathrm{d}L=&\sum_i\left(\frac{\partial L}{\partial x_i}\mathrm{d}x_i+\frac{\partial L}{\partial \dot{x}_i}\mathrm{d}\dot{x}_i\right)+\frac{\partial L}{\partial t}\mathrm{d}t\\
=&\sum_i\left(\frac{\partial L}{\partial x_i}\mathrm{d}x_i+p_i\mathrm{d}\dot{x}_i\right)+\frac{\partial L}{\partial t}\mathrm{d}t
\end{align}
となります。よって、\(\{\dot{x}_i\}\)と\(\{p_i\}\)を入れ替えるような形でLegendre変換ができそうです。
 結局、ハミルトニアン(Hamiltonian)\(H\)というものを次のように定義します。
\[
H=\sum_ix_ip_i-L
\]
ハミルトニアンは系の全エネルギーと等しい量で、実際に計算するときは\(H=T+V\)として計算することが多いです。
 このとき全微分を色々計算すると([久保]p.53-57など参照)、\(V\)が座標変数のみによる(保存力)場合
\[
\dot{x}_i=\frac{\partial H}{\partial p_i},~~\dot{p}_i=-\frac{\partial H}{\partial x_i}
\]
という方程式が得られます。これをHamiltonの正準方程式といって、Hamilton形式の解析力学における系の時間発展を表す基礎方程式です。片方にマイナスがついていますが、それとなく対称的でいい感じな雰囲気がします(適当)。

1.4.3 例(1次元調和振動子

 よくある調和振動子の問題をHamilton形式の解析力学で扱ってみましょう。
 ラグランジアン\(L\)は、
\[
L(x)=\frac{m\dot{x}^2}{2}-\frac{kx^2}{2}
\]
だから、座標\(x\)についての一般化運動量は
\[
p_x=\frac{\partial L}{\partial\dot{x}}=m\dot{x}
\]
です。計算するまでもない気もしますが。
 ハミルトニアン
\[
H=\frac{p_x^2}{2m}+\frac{kx^2}{2}
\]
のようになるので、これを正準方程式に突っ込むと
\[
\dot{x}=\frac{\partial H}{\partial\dot{p_x}}=\frac{p_x}{m},~~~\dot{p_x}=-\frac{\partial H}{\partial\dot{x}}=-kx
\]
となります。前者は単なる運動量の表式で、後者はよく見る調和振動子微分方程式です。
 今回の例は普通にデカルト座標で解いても楽な問題でしたが、一応こんな感じでHamilton形式の解析力学を使うのだということがわかってもらえたと思います。わからなかったらごめんなさい。

1.4.4 まとめ

 要するに、一般化座標\(x_i\)に対する一般化運動量を
\[
p_i=\frac{\partial L}{\partial\dot{x_i}}
\]
ハミルトニアン
\[
H=T+V
\]
として、正準方程式
\[
\dot{x}_i=\frac{\partial H}{\partial p_i},~~\dot{p}_i=-\frac{\partial H}{\partial x_i}
\]
に代入したら系が満たす微分方程式が出てくるのがHamilton形式の解析力学です。
 Hamilton形式の解析力学は、物理的内容や数学的な内容が色々あってめちゃくちゃ奥が深い学問です。正直なところ、筆者はろくに理解していません。この記事に書いた内容くらいが精いっぱいです。この記事に書いたような内容は解析力学のさわりの部分に過ぎないので、まともに勉強したい人はちゃんとした本を読んでください。

1.5 解析力学のまとめ

 解析力学の良さは、系が満たすべき微分方程式の形が座標系の選び方によらないことにあります。運動エネルギー\(T\)とポテンシャルエネルギー\(V\)を一番書きやすい都合のよい座標系を選べばいいわけです。この記事の例で選んだような簡単な問題ではご利益がわかりにくいかと思いますが、試しに適当な参考書の演習問題などをNewton力学とLagrange形式で解き分けてみてご利益を体感してみるとよいと思います。
 この記事では、電磁場のラグランジアンや、Poisson括弧、正準変換などの重要な内容をばっさりカットしてしまいました。詳しいことはきちんとした教科書・参考書にあたって勉強してください。また、解析力学は数理物理(あるいは数学)的にも面白い題材(だそう)なので、そっち方面の文献も山ほどあります。気になる人は色々調べてみるとよいでしょう(投げっぱなし)。

2 量子力学群論

2.1 群論超速入門

2.1.1 数学としての群論

 この節では、純粋に数学としての群論がどういうものかというのを簡単に説明します。物理をやる人の視点からの説明なので厳密さは捨てていますし内容も十分ではないですが、怒らないでください*4。この記事は主に[今野][押山]などをガバガバに解釈して要点をピックアップすることで成り立っているので、物理がらみの群論をきちんと勉強したい人はそっちを読むとよいでしょう。
 「群論」という数学の分野を一言で勝手にまとめてしまうと、「集合に計算規則(演算)を1つだけ入れて、逆演算をどの元についても可能にしたときどれくらい数学的な内容を考えることができるか」という学問です。ちゃんとステートメントを書くと次のような4つの条件になります。

  1. 集合\(G\)があって、\(G\)について閉じた演算が一つ定義されている(仮にこれを積\("\cdot"\)とする)
  2. \(G\)の任意の要素\(a,b,c\)に対して、\(a\cdot(b\cdot c)=(a\cdot b)\cdot c\)(結合法則
  3. \(G\)の任意の要素\(a\)に対して、\(a\cdot e=e\cdot a=a\)を満たすような\(e\)が存在する(単位元
  4. \(G\)の任意の要素\(a\)に対して、\(a\cdot x =x\cdot a=e\)を満たすような\(x(=a^{-1}\)と書く\()\)が存在する(逆元の存在)

群論では演算のことを「積」と呼ぶことが多いのでこの記事でもそう呼ぶことにします。
 例えば、\(0\)を除いた実数の集合に通常の積の演算を考えると群になります。ルール1,2は明らかとして、単位元として\(1\)、\(x\)の逆元として\(1/x\)があるからです。また、ある自然数\(n\)を固定したときの\(n\)次正則行列の集合に普通の行列の積を考えたらそれも群になります。単位元として単位行列があるし、「正則」と宣言しているからには逆行列が存在するからです。行列の例からわかるように、群の定義では積の順番については何も言っていないことに注意です*5。数学としての群論に興味がある人は[雪江1]などを読んで下さい。

2.1.2 対称操作のなす群

 このように完全に数学的な分野である「群論」が物理と関連してくるのは、実は物質や分子などの特徴に関わってくる「対象操作」というものが群を成すからです。対象操作の定義は(意外と面倒なので)しませんが、例えば格子の並進対称性やある軸回りの\(2\pi/n\)回転などが対象操作です。群を成すための演算は対象操作の合成で、例えば対象操作\(S_1\)と\(S_2\)を順番に行う合成操作を\(S_2\cdot S_1\)と書くことにすると、"\(\cdot\)"は群としての条件をすべて満たします(以後、普通の積と同じように"\(\cdot\)"は省きます)。(物性)物理屋さんが「群論」というのは、対象操作が群を成すからそういうワードを使っているというだけで、本当に関心があるのは群論ではなく対象操作であることに注意です(※筆者の感想です)*6
 系(その時考えている分子や、結晶の構造など)がある対称操作に対して不変であるとき、その操作についての対称性がある(あるいは対称性を持つ)といいます。例えば、アンモニア分子は中心周りに\(2\pi/3\)回転しても同じなので、3回回転対称性があります。この記事では、そういった対称性から物質の性質を考える方法について簡単に紹介するつもりです(あくまで少し紹介するにすぎないので、本当に詳しいことが気になる人はちゃんとした参考書([今野][犬井][押山]など)を読んでください。)。

2.2 点群・格子・空間群

 ここでは、用語の定義をまとめて紹介します。このあたりは[今野]にめちゃくちゃ詳しく各論的に載っているので、興味のある物理工学科生はぜひとも読んだ方がいいと思います。
・点群
 点群とは、少なくとも1点以上の点が不変に保たれるような対称操作のことです。線やら面ごと不変な操作も多いです。具体的には、n回回転操作・鏡映操作・空間反転操作などです。回転と鏡映を組み合わせた回映操作や、回転と反転を組み合わせた回反操作などもあります。点群を記述する記号には2種類あって、Schoenflies記法*7とHermann–Mauguin記法というものがありますが、説明するのが面倒なのでWikipedia先生にお願いしようと思います。

・格子点
 格子点とは、周囲の環境が完全に同じであるような点の"集合"のことをいいます。「完全に同じ」と言い張るからには考えている物質(たぶん結晶)は無限に大きいということを仮定していて、実際、普通の結晶の大きさと単位格子(未定義語を出してごめんね)の大きさのオーダーを比べると十分な近似であるといえます。定義からわかるように、格子点は別に原子などが存在する点を選ぶ必要は全くありません。

・単位格子
 単位格子とは、格子点に囲まれる最小単位の空間一つのことを言います。

・並進対称操作
 並進対称操作とは、格子を特徴付けるような対称操作で、\(\vec{a},\vec{b},\vec{c}\)をそれぞれ線形独立な(3次元)ベクトル、\(l,m,n\)を整数とすると、
\[
\vec{r}=l\vec{a}+m\vec{b}+n\vec{c}
\]
で表されるベクトル\(\vec{r}\)のぶん系を並進移動させるような対称操作のことをいいます。
 何らかの格子があるとき、単位格子の三辺をそれぞれ\(\vec{a},\vec{b},\vec{c}\)として選ぶと、これらのベクトルによって作られる並進対称操作で格子は不変になります。要するににピッタリ重なってしまうわけです。逆に、線形独立なベクトル\(\vec{a},\vec{b},\vec{c}\)があるとき、\(\vec{r}=l\vec{a}+m\vec{b}+n\vec{c}\)のように整数を係数にした線形結合によって作られる点\(\vec{r}\)の集合は格子になります。このように、並進対象操作の対象性は格子を特徴付ける対称性です。

・Bravais(ブラヴェ)格子
 Bravais格子とは、2,3次元における格子*8を対称性によって分類したものです。2次元では5種類、3次元では14種類ありますが、具体的にはWikipedia結晶構造)か[今野]を見てください。

2.3 有限群の表現論入門

2.3.1 表現とは

 本記事の群論パートの主題である「表現」について説明しましょう。数学的な「表現」の定義は詳しい本[雪江3]p.206などを見てもらうとして、ここでは筆者独自の解釈を含むざっくりとした説明をします。
 「表現」とは、群の要素から正則行列への準同型な対応関係のことをいいます。「準同型」とはどういうことかというと、群の要素を\(a,b,c\)、それぞれに対応する行列を\(M(a),M(b),M(c)\)とするとき、
\[
ab=c~\Longrightarrow ~M(a)M(b)=M(c)
\]
が成り立つことをいいます。言い換えると、群の世界での掛け算の結果が対応する行列の世界の掛け算でも完全に保たれているのが準同型です。ただし、行列の世界での掛け算から得た情報から必ずしも群の世界の情報が得られるわけではありません。群の世界では異なる要素が、行列の世界では同じ表現に対応するような表現を考えるのもありということです。
 表現の例として、次のような群を考えてみます。恒等操作を\(E\)、3回回転操作を\(C_3\)とすると、集合\(\{E,C_3,C_3^2\}\)は群を成します(\(C_3^2=C_3\cdot C_3\)、要するに\(2/3\)回転です)。この群のことを\(C_3\)と呼ぶことにします。群の名前と要素の名前が同じですが、あまり混乱することはないでしょう。
 ところで、群の要素どうしの積について色々考察する際に結果が表にまとまっていると便利です。次の表のように、"列の要素"×"行の要素"となっているような表のことを積表といいます。
\[
\begin{array}{c|cc}
& c & d \\ \hline
a & ac & ad \\
b & bc & bd
\end{array}
\]
先程の群について積表を作ってみると次のようになります。
\[
\begin{array}{c|ccc}
&E&C_3&C_3^2 \\ \hline
E&E&C_3&C_3^2\\
C_3&C_3&C_3^2&E\\
C_3^2&C_3^2&E&C_3
\end{array}
\]
この群に対応する表現を考える場合、行列の世界での積の結果がこの表を満たす必要があります。
 \(C_3\)は回転操作なので、表現として回転角度に対応する回転行列を当てはめればよい気がする。\(E\)は何もしない操作のことだから、\(0\)度の回転として表すことができる。回転行列の表式が
\[
\begin{pmatrix}
\cos{\theta} & -\sin{\theta} \\
\sin{\theta} & \cos{\theta}
\end{pmatrix}
\]
のようなものであったことを思い出すと、
\[
E\rightarrow
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
,~C_3\rightarrow
\begin{pmatrix}-\frac{1}{2} & -\frac{\sqrt{3}}{2} \\
\frac{\sqrt{3}}{2} & -\frac{1}{2}
\end{pmatrix}
,~C_3^2\rightarrow
\begin{pmatrix}-\frac{1}{2} & \frac{\sqrt{3}}{2} \\ -\frac{\sqrt{3}}{2} & -\frac{1}{2}
\end{pmatrix}
\]
と対応付けてみると積表を完全に再現することがわかります。暇な人は計算してみてください。筆者は面倒で計算してないのでどこか代入ミスしたかもしれません。
 このように、もとの群の積の結果を完全に再現するような行列への対応関係が表現です。ただただ再現すればよいので、
\[
E\rightarrow\begin{pmatrix}1\end{pmatrix},~C_3\rightarrow\begin{pmatrix}1\end{pmatrix},~C_3^2\rightarrow\begin{pmatrix}1\end{pmatrix}
\]
のような表現も、定義上は完全にOKです(1行1列の行列です)。もちろんこのような表現にあまり意味はありません。

2.3.2 可約表現と既約表現

 線形代数では、ある行列\(A\)に対して、正則行列\(X\)によって
\[
A\rightarrow X^{-1}AX
\]
のように変換を行うことを相似変換と呼びました。これは、今考えている基底に対して\(X^{-1}\)をかけるような線型変換を行った世界だと\(A\)は\(X^{-1}AX\)のように変換されるということを表しています。正則行列をかけるという座標変換が、「拡大・縮小」及び「回転」の操作の組み合わせで表せる相似拡大であるから「相似変換」と呼ぶのでしょう(たぶん)。
 さて、表現行列は行列です。座標変換(相似変換)によって別の座標系に移ることができます。座標変換によって都合の良い座標系に移ることで問題を単純にすることができます。そういった相似変換の中で一番行列の特徴をえぐり出してくれるのは対角化だと思いますが、対角化はいつでも可能とは限りません。また、表現行列の基底は全て共通しているべき(でないと互いに掛け算できない)なので、変換の行列\(X\)は全ての行列に対して共通でなくてはなりません。とりあえず、(考えている群の)全ての表現行列を頑張って相似変換して
\[
X^{-1}AX\left(\begin{array}{c|c|cc|c|cc}
1 & &&&&& \\ \hline
& 2&&&&& \\ \hline
&&0&-1&&& \\
&&1&0&&& \\ \hline
&&&&1&& \\ \hline
&&&&&1&1 \\
&&&&&0&1
\end{array}\right)
\]
のように、これ以上対角化できないブロック行列のみを対角成分に持つような行列に変換できたとします。このような表現を、既約表現といいます。逆に、まだブロック行列に分割する余地を残している行列のことを可約表現といいます。(ところで詳しい人に聞きたいのですが、これってJordan標準形の考え方とはどう違うのでしょうか。完全にJordan細胞の形になってなくてもよいだけで、これ以上対角化できない部分空間に分割するところまでは一緒だと思っているのですが、それでよいのでしょうか)
 ブロック行列に分解すると、分解したそれぞれの世界でももとの積表を満たすことがわかります。\(AB=C\)を満たす表現行列\(A,B,C\)がそれぞれ
\[
A\rightarrow\left(\begin{array}{c|c}\Gamma_1(A) & 0 \\ \hline 0 & \Gamma_2(B) \end{array}\right),~B\rightarrow\left(\begin{array}{c|c}\Gamma_1(B) & 0 \\ \hline 0 & \Gamma_2(B) \end{array}\right),~C\rightarrow\left(\begin{array}{c|c}\Gamma_1(C) & 0 \\ \hline 0 & \Gamma_2(C) \end{array}\right)
\]
のように既約表現に分解できたとすると(既約表現には\(\Gamma\)を使うのがならわしです)、それぞれのブロック行列でも
\[
\Gamma_1(A)\Gamma_1(B)=\Gamma_1(C),~\Gamma_2(A)\Gamma_2(B)=\Gamma_2(C)
\]
が成り立ちます。
 そもそも、何らかの表現行列があったとして、そこにブロック行列を対角成分に付け足したらいくらでも元の群の積表を再現する表現行列を作り出すことが出来ます。そもそも、いい感じに系の情報を全部持っていて過剰ではない既約表現とはどんな感じなのでしょうか。ブログの形式で行列を書くのが無限に面倒なのでこれ以上に議論はしませんが、詳しいことが気になる人は[今野][犬井]とかを読んで下さい。というか著者はよくわかっていない。

2.3.3 指標表

 表現というのはあくまで行列なので性質を調べたりするのに十分シンプルとは言い難いです。そこで、ブロック化したそれぞれの表現行列のトレース(対角和)を考えてみることにします。実は、トレースをとった指標を考えるだけでも物理的な情報を得るには十分で、この記事は本来指標表の「使い方」のみを簡単に述べるつもりでした。なぜこんなことに。
 ある群について、既約表現のブロックを列、群の要素を行にしてそれぞれ指標を並べたものを指標表といいます。例として\(C_{2v}\)を選ぶと*9次のようになります。
\[
\begin{array}{c|cccc|c}
C_{2v} & E &C_2&s_v&s_v'& \\ \hline
A_1&1&1&1&1&z,x^2,y^2 \\
A_2&1&1&-1&-1&xy \\
B_1&1&-1&1&-1&x,zx \\
B_2&1&-1&-1&1&y,yz
\end{array}
\]
最初に謝っておくと、この表に書いてある\(s_v\)の\(s\)はσなのですが、miniTeXの環境と\sigmaというコマンドが干渉するので仕方なく\(s\)に置き換えています。左の列にある\(A_1,A_2,\dots\)は既約表現の種類で、Mulliken記法という表記で表されています(詳しくは[今野]p.88を見てください)。右の列に書いてあるのは基底関数と呼ばれるもので、簡単にいうとその既約表現と同じ対象性を持つ関数が並べられています*10。「同じ対象性」とはどういうことだ?という疑問に対しては筆者もろくに答えられないのでスルーするとして、これでようやく任意の波動関数やらテンソルやらの対称性を指標表を使って解説する準備が整いました。
 この節は意味不明だったと思います。書いていて自分でも「コイツ何もわかってないのに書いてやがる」って感じでした。本来この記事は応用や使い方について説明するものなので、とりあえず、指標表というものの存在を認識してくれればそれで大丈夫だと思います。ざっと使い方が知りたい人は[高木]を、少しは詳しく勉強したい人は[今野]を、ガッツリ勉強したい人は[犬井]を読んで下さい。とにかく、2.4以後の応用例を見ていきましょう。

2.4 例1 分子軌道法

2.5 例2 配位子場理論

2.6 量子力学群論のまとめ

3 「小説家になろう」を読もう!

小説家になろう」はいいぞ

3.1「小説家になろう」について

 小説家になろうとは、2004年に開設された小説の投稿サイトで、ジャンル問わず様々な小説が毎日膨大にアップされ続けている超人気サイトです。ごくまれにプロが小説を載せていることもあるようですが、基本的に素人が書いたクソみたいな小説ばかりが載っていると考えて大丈夫です。最近では投稿された作品が出版社の目に留まって書籍の形で出版されることも多く、素人とプロの壁というものがどんどん曖昧になってきています。今では「なろう書籍化」作品だけで一つのジャンルを作れるほど出版されていて、大きい書店などだとなろう作品だけで棚をいくつも占有するような状態になっているのを見ることができるでしょう。

3.2 流行のジャンル・風潮

 この説では流行のジャンルやその特徴や風潮や雰囲気について、読者としての筆者がぼんやりと持っている印象をつらつらと書き連ねます。筆者の能力が低いために体系的に述べることはできませんでした。許してください。
 なろう小説におけるジャンルで最も有名なものは「異世界転生」でしょう。簡単に述べると、何らかの事情で死んだ人物が記憶を保ったまま*11異世界の誰かに生まれ変わるというものです。生まれ変わる異世界では魔法や呪術のようなファンタジー要素が存在していたり、ステータスやスキルのようにファンタジー要素がゲームのパラメータのごとく把握できるのが通例です。パラメータの把握の仕方もいろいろで、その世界では誰でも把握できるという場合もあれば、転生してきた主人公のみが把握できているということもあります。なお、生まれ変わるわけでなくそのまま異世界に飛ばされることを「トリップ」などと言ったりしますが、意外とこっちのパターンも多いです。トリップに際しても、おっさんが若返ったり特殊能力を得たりする場合があります。
 異世界転生系の作品においては、主人公が何らかの「恩恵」や「特典」を持っているというのが典型的です。特に理由付けがないこともありますが、「前世での死は神によるミスであり、その謝罪として良い特典を与える」、「前世での暮らしがあまりに悲惨であったor善良であったために神が特典を与えてくれる」などのパターンが多いです。特に特典がない場合でも、現代日本*12において得られた知識や経験そのものが役に立つために主人公が活躍するという場合があります。

3.3 筆者のおすすめ

3.4 まとめ

参考文献(とりあえず著者名を使って思いついた順に並べて、後から登場順に番号付けする。最初から番号付けするとあとから本当に面倒になる可能性があるので……)

 参考文献をリストアップしておきます。念のために申し上げておきますが、このリストには

  • 記事中で直接引用・参照したもの
  • 記事を書くうえで参考にしたもの
  • 記事に直接関係はないが、読者に対して紹介するもの

が混在しています。ご容赦いただきたい。
[初]初貝安弘著『物理学のための応用解析』(サイエンス社、2003)
 我々の世代の数学1Dの指定教科書だった本。薄くて安いのに数学1D、数学2Dの範囲をほとんどすべてカバーしていてすごい。コンパクトにまとめすぎで正直わかりにくい。
[久保]久保謙一著『解析力学』(裳華房、2001)
 普通の教科書。量子力学で使うことを目的にしている感じがある。
[十河]十河清著『解析力学』(日本評論社、2017)
 「日評ベーシックシリーズ」なるシリーズの一冊なのに全然内容が「ベーシック」ではない高度な本。決して1冊目の教科書に選ぶ本ではない。
[山本]山本義隆、中村孔一著『解析力学I』(朝倉書店、1998)
 幾何学を使った現代的な解析力学のことが書いてある(らしい)。数学3(これも工学部の授業の名前です)とかで微分幾何を勉強したらなんとか読めると思うのでお好きな人はぜひ。筆者は数学的な証明を参考にするために部分的に読みました(記事には全く生かされていない)。
[今野]今野豊彦著『物質の対称性と群論』(共立出版、2001)
 物性物理(あるいは化学や材料工学などの物質にまつわる科学)における群論の”使い方”を詳しく説明した本。かなり広い範囲の内容を扱っていて、様々な読者のニーズに対応している。物工民は全部読んでいいと思う。話が具体的すぎて逆にわかりにくい部分があったり誤植がちょくちょくあるのが難点。物質との関わりについてがメインなので、いわゆる連続群やLie群といった内容には触れられていない。
[犬井]犬井鉄郎、田辺行人、小野寺嘉孝著『応用群論』(裳華房、1980)
 物理学における群論の応用についてなんかめっちゃ詳しく書いてある。10000円弱するから買う勇気が出ないんだけど誰か私にプレゼントしてくれないかなあ。
[雪江1]雪江明彦著『代数学1 群論入門』(日本評論社、2010)
 数学屋さんの読む群論の本。この本を読んでも物理とかで使えるようには全くならない。詳しくて例がたっぷりの良い本。
[押山]押山淳著『東京大学工学教程 量子力学II』(たぶん丸善出版、unpublished、東大の図書館にはパイロット版が置いてある)
 未だに1冊も出版されていない(17年12月現在)物理系の工学教程の1冊。200ページ足らずの本でありながら、量子散乱理論、相対論的量子力学、多粒子の量子力学、電磁場の量子化群論絡みの量子力学のことが載っており、分量がおかしい。この内容が1コマで本当に全部終わった量子力学第三(※物理工学科の授業です)の凄まじさを感じて欲しい一冊。なお『量子力学I』は……
[雪江3]雪江明彦著『代数学3 代数学のひろがり』(日本評論社、2011)
 「表現」の数学的な定義を引っ張ってくるためだけに図書館から借りてきた。それ以外の部分を一切読んでいないので紹介することも褒めることも貶すこともできない。申し訳ない。
[高木]高木秀夫著『量子論に基づく無機化学』(名古屋大学出版会、2010)

*1:群論量子力学第三でやるのですが、授業が速すぎて私のような弱者には理解しにくいし、そもそもそれ以前の学期にも群論の話はちょくちょく出てきます

*2:非関係者への注:これらは応用物理系の学科の授業の名前です

*3:というかこれ以外よく知らない

*4:どうしても怒りたい場合はコメントやTwitterなどにどうぞ

*5:\(a\cdot(b\cdot c)=(a\cdot b)\cdot c\)だが\(a\cdot b\neq b\cdot a\)だということ

*6:よく知らないけど、対象操作以外にも群が絡んでくる物理はたくさんあってそっちのことを指している場合もあります。

*7:\(\mathrm{Sh\ddot{o}nflies}\)みたいにウムラウトなのかと思ったけどどうも違うっぽい。

*8:これでいいかと思ってWikipediaを見たら4次元のBravais格子を考えている人もいるらしい。すげえ。

*9:関連分野の本もやたら例に\(C_{2v}\)が多いので、きっと使いやすいんだと思います。

*10:x,y,zといった座標の選び方が気になる人はSchoenflies記法での定義を調べてください。基本的に主軸(一番数の大きい回転軸)がz軸です。

*11:ほとんど失われていて断片的に覚えているという場合や、何らかの知識のみが残っているという場合もある。

*12:これはあくまで典型的な例で、そもそも必ずしも現代日本から転生するというわけではない。